現状の理解とPCR検査
症状のある人の行動に関してまとめようとしているのですが、
具体的な症状の話を始める前に、
いくつか前提としてお話ししておいた方がいいことがあります。
刻々と状況も変わっていっているので、現時点(4月25日)での情報とご理解下さい。
先月から感じていたことと、ここ数週間の世間の動向を見ていてさらに強く感じたこと。
それは、
一般の方と、医師を中心とした専門家の間での、
見解の相違というか、
認識のズレがあまりにも大きい
ということ。
具体的な話をする前に、今回はそこをクリアにしておきたいと思います。
若干、ややこしい話も出て来ますが、現状を理解する上で必要な知識でもあると思うので、あえて書いてみます。
まず、
① コロナウイルスは「死の病気」ではない
以前の記事にも何度も書いていることですが、
新型コロナウイルスは一般の方が感じているような「死の病気」ではありません。
コロナウイルスは、一般的な風邪のウイルスです。
新型コロナウイルス(COVID-19)は、それが変化したバージョンです。
症状としては、例外もありますが、発熱や咳といったいわゆる風邪の症状であることが多いです。
そして、
大半の人は罹って症状が出ても、
無治療あるいは対症療法のみで治っています。
もちろん、亡くなっている方がいることは事実ですし、
ただの風邪より肺炎を起こしやすいウイルスですから細心の注意は必要です。
しかし、現在の報道の仕方には偏りがあることも事実です。
症状が重かった人のインタビューばかりで、大半を占める症状が軽い人の話はほとんど出てきません。
そして、テレビなどのメディアに、病院で防護服を着ている医療従事者が頻繁に映るせいでしょうか。
死を連想させる演出があまりにも多いせいでしょうか。
世間のイメージは、致死率80−90%の「エボラ出血熱」みたいな感じだと思います。
感染=死
というイメージがあまりにも強すぎる。
恐怖を煽ることで、行動変容させようという意図があるものと想像しますが、それが却って人々を惑わせているところもあると思っています。
メディアのイメージに惑わされず、もう少し冷静に現実を受け止めて欲しいです。
厚労省が正式発表するデータを使っているので、数日のズレが生じますが、4月23日時点での各年代別の重症者数、死亡者数、死亡率を示します。
現時点で論文化されている中国、イタリアの死亡率も示します。
(今後、研究が進むと数字は変わっていきますので、4月25日現在のデータとご理解下さい)
今のところ、最前線にいる医療関係者の懸命な治療の結果、日本の死亡率は各国と比べてかなり低いです。
ちなみに、インフルエンザで年間何人の方が亡くなっているかご存知でしょうか。
インフルエンザに罹って苦しかったという経験をお持ちの方もいると思いますが、インフルエンザで死んでしまうなんて考えたことがない人の方が多いのではないでしょうか。
年によってばらつきはありますが、
日本のインフルエンザの死亡者数は年間1500〜3000人、死亡率は約0.1%です。
一応、ワクチンや治療薬が存在するにもかかわらずの数字です。
4月25日現在の新型コロナウイルス感染による死亡者数が300人強とされていますから、インフルエンザと比較しても死亡者が特に多いわけではないことがお分かり頂けるかと思います。
だから、『感染=死』という認識は現実とズレがあるということです。
とはいえ、基礎疾患を持っている人、50歳以上の中高年、特に70歳以上の高齢者では格段に死亡率が高まりますから、こうした人々はより注意が必要なわけです。
そして、40代以下の若年者は、自分の感染予防はもちろんのこと、ハイリスクの人に感染させないことに注意を配る必要があります。
このウイルスは無症状の感染者の割合が多いことが推察されています。
ここ最近の世界各地からの報告では、現時点で無症状の人の約2-14%程度に陽性反応があったとしています。
日本でも慶應大学病院が発表した6%という報告があります。
つまり、無自覚のうちにすでに感染している人が、少なくとも1割近くいる可能性があるということです。
この数はもっと増えていく可能性が高いでしょう。
こうしたことを踏まえて、
すでに無症状の感染者であるあなたが、ハイリスクの人に移してしまっている可能性もあるわけです。
ですから、
自分は罹らない、
若くて重症化しないから、安易に外出する、
マスクをしなくてもいいや、
自分だけは大丈夫、
ではなく、
すべての人が当事者意識を持って、
見知らぬ誰かのために、今自分が出来る行動をする思いやりを持って欲しいと切に願います。
以前の記事(⇨ 今、多くの人に知って欲しいと思うこと)にも書いたように、
新型コロナウイルスをこの世から排除する
一生罹らないでおく
ということはほぼ不可能です。
このウイルスと「共存」すること
が、私たちが目指すゴールになるでしょう。
インフルエンザが、「スペイン風邪」として世界中で大流行して多くの人が亡くなり、その後にワクチンや治療薬が開発されても、毎年流行が起こるように、この新型コロナウイルスも今後人類が付き合っていくことになるウイルスの一つとなる可能性が高いです。
共存するためには、人類の大半がこのウイルスに対しての抗体を獲得することが必要になります。
感染しないことが正解なのではなく、
すでに見えないところで感染は拡がっていて、
先ほども示したようにすでに1割くらいの人が抗体を獲得していることを考えると、
多くの人は、どこかのタイミングでウイルスと接触・感染して抗体を獲得することになるだろうという予測もできます。
しかし、これはそう簡単にすぐ出来ることではなく、数年単位で時間を要します。
爆発的な感染によって医療が崩壊してしまうことは、避けなければいけません。
過剰に怖がって騒ぎ立てるのではなく、
感染した人をバイ菌扱いして差別したりするのではなく、
特別な人だけが感染するのだと傍観するのでもなく、
すべての人が自分の事として受けとめ、冷静に対処して欲しいと思います。
そして、
② PCR検査について
以前の記事(⇨ 冷静に状況を見極め、行動しよう!① 症状がない人編)にも書きましたが、
PCR検査を特定の人に限って行なっているのは、まずは重症者に適切な治療ができるよう、限りある医療資源を有効に使うため。
そして、希望者に闇雲に検査をしないのは、
PCR検査が確定診断にはならないから。
さらには、陽性でも陰性でも、症状がある場合の実際の対処法はたいして変わらない。
現場の医師はその意味を十分に理解しています。
しかし、ここが一般の方に最も伝わっていない部分だと思います。
検査さえして貰えば安心できると思い込んで、保健所や医療機関で検査をしてくれとゴリ押ししている人の話をよく聞きます。
マスコミでも、専門家とされている人が「とにかく検査を増やすべきだ」、などと言っているのを耳にします。
色々な意見があるとは言え、こういうことを言っている人は医学教育を受けていないのではないかと疑ってしまいます。
(ちなみに、医学博士は必ずしも医師ではありません)
ここから、なぜ、闇雲に検査することに意味がないのかを解説します。
これからお話しすることは、医学部の2−3年生までには必ず学ぶ、医学の基礎知識の一部です。
やや複雑な部分もありますが、なるべく具体的な数字を示しながら説明したいと思います。
まず、どんな検査も、1つで診断を100%確定できる検査は存在しません。
検査には、感度と特異度というものがあります。
感度:感染している人を
陽性と正確に判定できる割合
(反対に偽陰性がある)
特異度:感染していない人を
陰性と正確に判定できる割合
(反対に偽陽性がある)
この2つがともに限りなく100%に近い検査が、信頼度の高い検査ということになります。
新型コロナのPCR検査は、感度が50-70%程度、特異度ははっきり示されていません。
つまり、感染していても30−50%の人は、検査で陰性となる可能性があるということです。
インフルエンザの迅速キットは、
症状出現(発熱)から6時間未満は感度60%台、24時間以降で90%台、特異度は98%程度と言われています。
インフルエンザで、
熱の出始めは検査に出ない、とか
検査は陰性だけど症状からはインフルエンザが疑われるから薬出しておくね
みたいなことに遭遇したことがある人もいるでしょう。
検査だけで確定診断は出来ないということです。
インフルエンザの迅速キットと比べても、新型コロナのPCR検査の信頼度がさほど高くないことはお分かり頂けると思います。
さらに、具体的な数字で示していきます。
感染者数が人口の1%程度と仮定し、日本の人口を便宜上1億人とします。
現実的ではありませんが、もし、国民全員にPCR検査をしたとします。
新型コロナの特異度は示されてませんが、仮にインフルエンザの迅速キットと同程度として、
PCR検査の精度を、感度70%、特異度98%と仮定した場合を示します。
1億人のうち感染者は1%の100万人。
そのうちPCR検査で陽性と判定されるのが感度70%から70万人。
残り30%の30万人は感染していても陰性となる「偽陰性」です。
一方、感染していない9900万人(99%)も同様にPCR検査を受けたとします。
正しく陰性となるのは特異度98%から9702万人、
2%の198万人は感染していないのに陽性となる「偽陽性」です。
一般の方は、
検査で陽性と言われたら、間違いなく病気だ!と思ってしまうでしょうし、
陰性と言われたら、大丈夫だった!と安心してしまうかもしれませんが、
どんな検査にも偽陰性、偽陽性というものが必ず存在するのです。
偽陰性が増えれば、感染者が感染していなかったと安心して感染を拡大させてしまいます。
偽陽性が増えれば、感染者でない人が病院に殺到して確実に医療崩壊が起こります。
そして、この誤差である「偽陰性」と「偽陽性」は、全体に占める感染していない人の割合が多いほど大きくなります。
闇雲に検査をしない理由は、ここにもあります。
この誤差を踏まえて、
先ほどの例の場合、陽性と言われた人が本当に感染者である割合(陽性的中率)を計算してみます。
検査で陽性と言われたのに、そのうちの26.1%しか感染していない。
残りの73.9%は病気じゃないのに陽性と判定されてしまう、という衝撃の結果です!
もう、訳が分からなくなってしまいますよね。
だから、闇雲に検査しても意味がないということになるのです。
この誤差を限りなく減らすためには、可能な限り感染している可能性が高い人に絞って検査をすることが必要です。
全体のうちの感染者の割合を高くする。
つまり、グラフの黄色の部分が多くなるように検査する対象を選ぶ。
先ほどのように全人口を対象とするのではなく、一定の症状がある人や濃厚接触者10万人(仮)に限って検査をしたとします。
その中での感染者の割合が、仮に80%だったと仮定します。
10万人のうち感染者は80%の8万人。
そのうちPCR検査で陽性と判定されるのが70%の5.6万人。
「偽陰性」が30%の2.4万人。
一方、残りの2万人(20%)は感染していないとします。
正しく陰性となるのは98%の1.96万人、「偽陽性」 は2%の0.04万人。
ここから、陽性的中率を計算すると99.2%。
陽性と言われれば、99.2%が感染している。
ここまで来てやっと、検査精度として一般の方の認識に近いレベルになります。
それでも、陽性者の0.8%は感染していないということも忘れてはいけません。
分かりやすくするために、仮の数字を使っていますので、現実とは乖離している部分はあると思います。
しかし、PCR検査の感度が70%程度というのは事実ですし、
どんな精度の高い検査であっても使い方によっては誤差が大きくなります。
たぶん、一般の方の意識としては、
とにかく心配だから、検査してもらって陰性と言われたら安心できる、
と思っているかもしれませんが、
陰性だったとしても、もしかしたら偽陰性かもしれない。
陽性と言われても、もしかしたら感染していない偽陽性の可能性もある。
検査を受けたからといって、安心できるわけではないんです。
だから、保健所や医療機関で検査の必要がないと言われた場合には、その指示に従って下さい。
お願いですから、くれぐれも
疲弊しきっている保健所の職員や医療関係者に詰め寄って検査を迫るようなことはしないで頂きたいと思います。
最近は、症状のない心配だから検査したいという希望者に対しても検査をしているクリニックも出て来ているようですので、どうしても検査したいという方は、是非そちらで受けて下さい。
そして、上記のように、偽陰性率が一般の認識よりも高いことを十分ご理解の上で結果を判断されて下さい。
じゃあ、どうしたらいいのか。
大事なのはとにかく『症状』です。
私たちが求めているのは、
検査で陽性か陰性かを知ることではなく、
「症状が治ること」
「他人に移さないこと」
が最終的な目標ですよね。
先ほどの説明に出て来たように、「偽陰性」も「偽陽性」もあるわけです。
検査に頼っていては、症状の悪化を見誤るかもしれません。
そうなれば、対応が遅れてしまう可能性も考えられます。
万が一感染した場合に必要なのは、
・体調の変化に気を配ること
・体調を回復して一日も早く治ること
・重症化した場合に適切な医療を受けられること
・他人に感染させないこと
PCR検査で「陽性」と言われることではない、
ということをどうかご理解下さい。
ここまで知って頂いて、いよいよ次回は症状がある場合の対処法へ進みたいと思います。
- 関連記事
-
- 現状の理解とPCR検査 (2020/04/25)
- 一人の行動の効果と、正義という名の攻撃について (2020/04/15)
- 冷静に状況を見極め、行動しよう! ① 症状がない人 編 (2020/04/12)
Comment